2010年02月21日

<統合決裂>キリンとサントリー 地位保証、明文化で対立 

 キリンとサントリーの経営統合交渉。食品業界の「勝ち組」同士の縁組が破談に終わったのは、統合後の筆頭株主となるサントリー創業一族の資産管理会社、寿(ことぶき)不動産の大株主としての地位の保証を巡る対立が最大の障害になったことが関係者の証言で明らかになった。

 寿が新会社の株式の3分の1超を保有し、会社が株主総会に提案する合併や増資などの重要案件への拒否権を持つことでは折り合ったものの、重要案件について株主総会前に寿と事前調整することを明文化するようにサントリーは要求。キリンは「特定の大株主を例外扱いにはできない」と拒んだ。これが引き金になり、主導権争いが収まらなくなった。

 「寿不動産はあくまで新会社の応援団。何とかルビコン川を渡ってほしい」

 両社の実務担当者が交渉を続けていた2月5日。サントリーホールディングス(HD)の佐治信忠社長(64)はキリンHDの加藤壹康(かずやす)社長(65)に長文の手紙をしたためた。

 週明け8日に設定されたトップ会談を前に実務者同士での歩み寄りは難しいと判断、トップの決断にわずかな望みを託した。

 寿はサントリー株の約9割を持つ。佐治社長はサントリーと寿の社長を兼務し、創業一族代表として経営も差配する「経営と所有(株主)一体」の象徴。手紙の中で佐治社長は「短期的な利益や配当など求めず、長期的な視野で事業を後押しする応援団。それが普通の企業ではできない冒険を可能にし、今のブランドと自由な社風を築いてきた」と「サントリーの歴史」に触れながら、寿が経営に介入する「口うるさい大株主」ではないことを力説した。

 交渉の正式スタートを確認した昨年6月のトップ会談で、2人が共有したのは、株式公開企業でありながら、安定株主が背後で支え、「市場万能」や「利益至上」に偏らない経営をする新しい企業像だったはず−−。それが加藤社長に対する佐治社長の最後のメッセージだった。

 交渉過程で佐治社長は取材に対し、「私と加藤君の代は話せば分かるから良いが、次の代、その次の代に変なことになったら困る。会社がうまくいっている限りは行使するつもりはないが、権利だけは確保しておく」と語っている。

 重要案件の事前調整の明文化にこだわったのは、オーナー家が粗略に扱われる懸念を解消しておきたかったからだ。

 しかし、8日に東京・赤坂の旧サントリー東京支社を訪れた加藤社長は「そろそろ終わりにしましょう」と交渉打ち切りを告げた。同日の記者会見で加藤社長は「上場会社として独立性、透明性を担保できない」と述べ、溝の深さをのぞかせた。【大塚卓也、窪田淳】

 ◇11月のキリン提案にサントリー社長激怒

 キリンとサントリーの経営統合交渉の雲行きが変わったのは昨年秋ごろだった。寿不動産が新会社の重要案件への拒否権を持つことに対し、キリンOBや三菱グループ企業などからの懸念が徐々に強まったためだ。

 キリンの加藤壹康社長は、「守秘義務契約」を盾に交渉の詳細な経過についてなお説明を避けている。ただ、関係者によると、加藤社長は昨年9月にひそかに佐治信忠社長を訪ね、こう打診した。「寿の持ち株を(議決権のない)優先株にするか、売却できないだろうか」。佐治社長は「カネが欲しくて統合するのではない」と即座に断った。

 取引銀行の幹部の一人は「加藤社長は海外の機関投資家などとも対話している。仮に寿不動産が新会社の実権を握るという印象が強まれば、売上高で1.5倍の規模があるキリンがサントリーにのみ込まれたという批判が出かねない、と判断したのでは」と推測する。

 案の定、11月24日にあった両社の交渉で、キリンは統合比率をキリン1対サントリー0.5とすることを提案した。これでは寿の保有比率は30%程度にとどまり、重要案件への拒否権は持てない。キリンは「金融機関の公正な資産査定に基づく数字で、寿の比率を3割以下にすることを念頭に置いた数字ではない」と説明したとされるが、サントリー側は収まらなかった。佐治社長は「統合はあくまで対等だ。加藤は本当に統合する気があるのか」と周囲に怒りを爆発させた。12月中旬をめどとした当初の基本合意発表はあっさり消えた。

 「12月以降の交渉は結果的に時間のむだだったのかもしれない」。佐治社長は今月8日の交渉打ち切りを発表後、関係者にこう漏らした。

 サントリー側の態度にあわてたキリンは、昨年12月末の協議で、「キリン1対サントリー0.6」とし、寿の持ち株比率がぎりぎり3分の1を超える条件を再提示した。「寿の『3分の1』問題は交渉の前提」と主張してきたサントリーにとって、この時がスタート点だった。

 しかし、サントリーがこの時投げた提案で、交渉は再び暗礁に乗り上げる。株主総会に諮る重要案件について、寿との事前調整を統合契約に盛り込むよう求めたことだ。上場会社のキリンにとって、特定株主だけを優遇する契約が表面化すれば、株主総会の紛糾は確実で、受け入れは難しい。同族企業のサントリーと見解が最も異なる点だった。

 新会社の人事については当初、加藤氏が社長、佐治氏が会長となり、2人が共同最高経営責任者(CEO)となる方向だったとされるが、この問題がこじれて確認は先送りされた。統合比率をめぐる交渉も、1対0.7強を上限とするキリン、0.85程度を下限とするサントリー双方の距離は縮まらない。

 キリンは、サントリーが3000億円強で買収した欧州の飲料メーカーの将来性を疑問視。一方でサントリーはキリン傘下の医薬事業の将来的な売却を求めていることも表面化。「統合比率や事業価値など、どうにでもできる」(取引銀行首脳)問題で混乱が生じたのは、統合後の経営主導権につながる根本問題で溝が埋まらなかったことが原因と見る関係者が多い。

 両社長が慶応大の同学年という縁から始まった世紀の統合交渉。加藤社長は交渉打ち切りの2日後にはトップ交代を発表し、年明けすぐの時期に三宅占二副社長に後継を要請したと明らかにした。「その時点ですでに決裂を想定していたのでは」という憶測も広がっている。

(Yahoo!ニュースより引用)
posted by lay at 15:00| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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