口蹄(こうてい)疫感染が疑われる症状がある牛や豚の存在について、行政がどう情報公開するかが難しい問題として浮上している。素早い情報公開は対策強化につながる一方、未感染が分かった場合、混乱だけを招くというリスクがある。農水省は感染疑い例と判断されてからの発表を基本とするが、口蹄疫は迅速な対応が求められるだけに、関係者は頭を悩ませている。(高橋裕子)
6月7日昼。広島県は「庄原市で発熱など口蹄疫に似た症状のある牛が見つかった」と発表した。
宮崎県にとどまっている口蹄疫感染が広島県に飛び火したとなれば大ニュースだ。「広島県で和牛に異常」。新聞社などマスメディアは即時に伝えた。
だが、午後5時過ぎの県の発表は、「遺伝子検査結果は『陰性』」だった。
「口蹄疫に似た症状」の情報に地元は一時、緊張した。他の牛の体温測定、予防的消毒、移動の自粛…。万が一に備えてあらゆる措置がとられた。
通常、口蹄疫に関する発表は、感染が疑われる症例が出て、遺伝子検査で検体が「陽性」となった場合か、写真などで感染疑いが確定的と判断された場合、都道府県と農水省が同時に行っている。
今回、広島県が発表したタイミングはいずれでもなかった。県は「難しい判断だったが、対応を急ぐとともに、連絡の届きにくい小規模農家にも注意をうながすため、県独自の判断で情報公開した」と説明。「もし『陽性』だったら、素早い対策がとられたはずだ」と話す。
しかし、農水省幹部は「もっと確かな証拠を把握してから発表すべきだった」と苦い顔だ。
各自治体も発表のタイミングを模索している。
9日に感染が分かった宮崎県都城市は、県の立ち入り調査で疑わしい症状が分かった直後から、畜舎の消毒や殺処分の準備などを始めた。ただ、発表したのは牛の写真から「感染疑いあり」と専門家が判定した後だった。
1日に疑わしい症状の牛が出た沖縄県石垣市は、疑わしい症状の段階から警戒のため消毒や、周辺農場のチェックなどを行ったが、後に未感染と判明した。
しかし、多くの自治体では、感染が疑われる症状を把握しながら、遺伝子検査で陽性になるまで広域での警戒態勢強化や情報公開をしていないとみられる。実際、動物衛生研究所(東京)には、宮崎県で感染が確認された4月以降、全国から遺伝子検査の依頼が相次いでいる。
「一部の関係者だけが、『ひょっとしたら陽性かも』とおびえながら、遺伝子検査結果を待っている」(関係者)のが現実だ。
どのタイミングが最も効果的なのか。対策に忙殺される自治体の悩みは深い。
(Yahoo!ニュースより引用)