みずほフィナンシャルグループ(FG)が、新株を買う権利(新株予約権)を既存株主に無償で割り当てる「株主割当増資(ライツ・イシュー)」を検討していることが22日、明らかになった。実現すれば日本で初めて。企業業績の大幅な悪化や金融機関の国際的な自己資本規制強化などを受け、昨年からメガバンクをはじめとした巨額の公募増資が相次いでいるが、市場では1株当たり利益の希薄化を懸念する声も出ていることから、みずほFGは新増資手法の検討に入った。既存株主の利益を保護する手法として、日本でも普及が期待される。
◆売却可能な予約権
日米欧の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は銀行の自己資本の量と質の引き上げを決め、2012年から段階的に導入する。これに伴い、三菱UFJFGは昨年12月に過去最大となる約1兆円の資本増強を実施。今年に入り三井住友FGも最大9730億円の公募増資に踏み切った。
みずほFGも、普通株を中心とした狭義の中核的自己資本がライバルに見劣りしていることから資本増強を検討しているが、公募増資や第三者割当増資に加え、株主割当増資の検討にも着手した。
昨年7月に行った約5000億円の普通株増資では「先例もなく時期尚早」(関係者)などとして、株主割当増資は採用に至らなかった。ただ、03年に行った1兆円増資の優先株の普通株への転換が残る上、株価も低迷。市場には「金融機関の増資攻勢で事業会社に新規資金が回らず、株価全体も押し下げている」(アナリスト)との指摘も根強いことから、既存株主への影響が少ない株主割当増資の検討に入ったとみられる。
株主割当増資は、既存株主に新株予約権を無償で割り当て、増資に応じる場合は新株予約権を行使して株式を購入。増資を引き受けない場合は新株予約権を市場で売却できる制度。株主は持ち株比率を維持しやすいほか、行使しない場合でも新株予約権の売却益で持ち株比率の低下による損失を穴埋めできる。
◆上場ルール変更
欧州では広く普及しており、08年秋のリーマン・ショック以降、金融機関が財務基盤を強化する際にも利用された。日本でも東京証券取引所が昨年12月に新株予約権の上場ルールを一部改正し、企業が株主割当増資を利用しやすいように変更。「利用に向けて証券会社に働きかけたい」(東証の斉藤惇社長)と後押ししている。
ただ、みずほFGの株主は60万人を超えており、事務手続きなどにコストがかかる。前例がないだけに、予定通りに新株予約権を発行しても売買がスムーズに行えるかなどの課題も多い。このため「市場調査をしながら研究を進める」(みずほグループ関係者)と、増資の実施時期と併せて慎重に検討を重ねている。(田村龍彦)
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≪野村証券金融経済研究所シニアストラテジストの西山賢吾氏≫
■株価に左右されず資金調達
日本は取締役会で公募増資を決定でき、既存株主に配慮せずに大量の株を発行できる。新株を引き受ける権利を与える株主割当増資(ライツ・イシュー)は既存株主に一定の配慮をしており、新株予約権を売却できるメリットもある。発行企業としても、決議したときに発行価格などの条件が決まるので、株価動向に左右されずに必要な資金調達ができる。
ただ、公募増資が1カ月、欧州のライツ・イシューも1カ月ほどで終わることを考えると、日本の現行制度では発行決議から権利行使まで2〜3カ月と長い期間がかかる。また、外国人投資家への開示書類の作成や多数の株主に対する事務手続きなども必要になる。
企業の立場に応じた資金調達の多様化という面では評価できる。しかし、公募増資もライツ・イシューも、調達した資金でいかに利益を生み出すかを株主に説明できるかが重要であることに変わりはない。