[フォト]「トヨタ すべって転ぶ」 英誌エコノミストが巻頭特集で酷評
「この車がなかったらトヨタはどうなっていたのか…」。 昨年末、あるトヨタ幹部が発したこの言葉が、いまのトヨタを端的に表現している。
その車とは「新型(3代目)プリウス」。エコカー減税など国の経済対策もあり、昨年5月の発売開始以来、注文が殺到。累計販売台数は20万台を超え、日本自動車販売協会連合会(自販連)による09年の車名別販売ランキングでも「プリウス」のトップが確実視されている。今、店頭で注文しても納車は6月中旬以降だ。
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ただ、今のトヨタにとって明るい話題は、国内でのプリウスなどハイブリッド車(HV)の販売好調くらい。世界では厳しい戦いを強いられている。
販売台数世界一の原動力となった米国では、単月の販売台数が09年10月以降、前年同月実績を上回っているが、09年1〜12月累計では前年実績を20%程度下回る見通し。さらに昨秋、高級車「レクサス」などでアクセルペダルにフロアマットが引っかかる「フロアマット問題」が発覚。昨年11月下旬、426万台のリコール(製品の回収・無償修理)に追い込まれ、米国でのブランドイメージに傷が付いた。
一方、中国の新車販売市場は09年に米国を抜き、10年には1500万台に達するとみられる。トヨタはSUV(スポーツ多目的車)の「RAV4」「ハイランダー」の現地生産などで09年の販売台数は前年比20%前後上回る見通しだが、独フォルクスワーゲンなど海外メーカーとの競争で苦戦を強いられている。
新車販売市場と生産能力との格差を縮める努力も緒についたばかり。米国では、米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁工場「NUMMI(ヌーミー)」から3月末での撤退を決めたほか、国内工場でも高岡工場(愛知県豊田市)第2ラインを今春から11年後半まで休止する。中国では「販売市場の10%のシェア確保を目指す」(トヨタ広報)というものの、現地の生産能力は約80万台に過ぎず、日米とは逆に生産能力が足りない。
証券子会社の売却、住宅事業の子会社への集約、自動車レースの最高峰F1からの撤退…。経営資源の本業回帰を鮮明にしたトヨタだが、その復活の手がかりは何か。
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トヨタ再生のキーワードは「エコカー(環境対応車)」と「新興国」。1日付で発足した「電池生技開発部」では、HVや電気自動車(EV)に使われる次世代車載用電池の生産技術の開発に取り組む。昨年末に法人向けリース販売を始めたプラグインハイブリッド車(PHV)も、早ければ来年にも一般販売に踏み切る見通し。さらに12年には米国で超小型車「iQ」をベースにした電気自動車を発売する計画。開発中の次世代電池はこれらの新型車両に投入される可能性が大きい。さらに15年には米国で燃料電池車も投入する。
一方、今年末にインドで発売される新興国向け小型戦略車「エントリー・ファミリー・カー(EFC)」。5日にニューデリーで開催される自動車展示会「オートエキスポ」で初披露されるが、「思ったよりも軽快に走る。日本で走っても遜色ない」(トヨタ幹部)と自信を持つ。EFCは12年に中国でも販売される計画だ。
新興国市場は、トヨタ以外の内外のメーカーも低価格の小型車を相次いで投入しており、競争が激化する。インドでのトヨタのシェアはわずか2%。ドイツ・VWとの資本業務提携を決めたスズキの約50%と比べると、トヨタの出遅れ感は否めない。
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販売の巻き返しには低価格が武器となるが、そのためには部品レベルでの原価低減が不可欠。トヨタは取引先の部品メーカーに対し、部品価格を今よりも30%下げるよう求めた。1日付の組織改正では調達企画部を設置。複数の部署にまたがっていた部品の設計や調達に関する機能を一元化し、部品メーカーと連携した原価低減の取り組みを一段と進める。早ければ12年前後に発売される新型車にはこの取り組みが反映される。
エコカーにしても新興国にしても、トヨタはすでに10年後よりもずっと先に目を向けて、着実に手を打っている。
08年秋に発生した世界同時不況で痛手を被ったトヨタ。米国市場を念頭に置いたそれまでの拡大路線から、新興国市場重視への路線転換は並大抵のことではなかった。
豊田章一郎名誉会長は社長時代、トヨタの企業文化について、「何かを決めるまでに時間がかかる。でも、決断したらとことんやる」と語った。10年を乗り切れば、再び「世界最強のものづくり企業」になれるかもしれない。(松村信仁)
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